8月の炎天下でも、彼の勉強は止まらない
8月に入ると、東京の空はじりじりと照りつけ、気温が35度を超える日が続く。街では中高生が夏休みの自由研究を抱えて図書館へ向かい、大学受験生が塾の夏期講習に汗をかく季節だ。
この夏、後楽園駅前の自習室KAKOIに、平日ほぼ毎日通い続けている25歳の男性がいる。職業欄には「無職」と書いた彼の目標はシンプルで、しかし途方もない——法科大学院合格、そしてゆくゆくは司法試験合格。
司法試験は日本でも最難関とされる国家資格のひとつ。その入口となる法科大学院への合格も、生半可な勉強量では届かない。彼はその長い戦いに、自習室という「場所」を選んだ。
主人公:25歳・無職。法曹を目指して退路を断った
仮にAさん(25歳・男性)と呼ぼう。大学卒業後、法律の道を志して就職せずに受験勉強に専念している。周囲の同期が社会人生活を始めるなか、Aさんは自分で選んだ道を歩んでいる。
法科大学院の入試は、法律科目の筆記試験に加えて小論文や語学も問われる。範囲は膨大で、法律の「読み方」そのものから積み上げていかなければならない。受験勉強を始めた当初、Aさんは自宅の机に向かっていた。
しかしすぐに壁にぶつかった。家にいると、勉強以外のことが次々と目に入る。スマートフォンの通知、積まれた雑誌、冷蔵庫の存在。「やらなければ」という焦りは日増しに強くなるのに、集中できない時間だけが過ぎていく。
一日の終わりにノートを振り返ると、進んでいるのはわずか数ページ。法科大学院合格という目標から、時間だけが溶けていく感覚が続いていた。
「安価で、他店舗も使える」——自習室を探し始めた理由
Aさんが自習室を探し始めたのは、「このままでは間に合わない」という危機感からだった。カフェで勉強する方法も試したが、混雑する時間帯に席を失うリスクがあり、長時間滞在には向いていなかった。図書館は静かだが、座席の競争が激しく、毎日安定して使える保証がない。
そこでたどり着いたのが自習室という選択肢だった。検索を重ねるなかで、Aさんが重視した条件は明確だった。
- 月額料金が比較的安価であること
- 複数店舗を自由に使い回せること
- 長時間の滞在が前提として設計されていること
「収入がない期間に勉強しているので、固定費は抑えたい。でも勉強の場所だけは妥協したくなかった」とAさんは語る。全店舗が使える月額プランで、後楽園駅前店に入会を決めた。
比較的安価かつ、他店舗も利用できること——それが決め手でした。受験期間はいつどこで勉強することになるかわからないので、どの店舗でも使えるのは大きかったです。
25歳・無職・法科大学院受験生(Aさん)
平日1日8時間。自習室が「受験生の職場」になった
入会してから、Aさんの一日は大きく変わった。午前中に自習室へ向かい、閉館近くまで居座る。平日は1日8時間を自習室で過ごすのが、今では当たり前のリズムになっている。
自宅の机では散漫になっていた集中力が、自習室に入った瞬間から別物になる感覚がある、とAさんは言う。周囲の人たちも何かに向かって勉強している。その空気そのものが、集中のスイッチになる。
法科大学院の受験勉強は、科目ごとに厚い基本書を何周も読み込む必要がある。民法、刑法、憲法——それぞれの体系を頭に入れながら、判例の読み方、論文の書き方まで身につけなければならない。一日8時間という時間は、長いようで「必要最低限」だとAさんは感じている。
平日は8時間ほど利用して、法科大学院合格、ゆくゆくは司法試験合格を目指したいと思っています。自習室に来ると、勉強するしかない状況になる。それが一番助かっています。
25歳・無職・法科大学院受験生(Aさん)
勉強の質を高めるために、Aさんが意識しているのはメリハリだ。集中するセッションと短い休憩を繰り返し、ただ座って時間を消化するのではなく、「理解が進んだか」を一日の終わりに確認するようにしている。自習室という環境が、そのサイクルを維持させてくれている。
「家だと休憩が休憩じゃなくなる。スマホを触り始めたら30分があっという間に消える。でもここにいると、休憩は休憩で終わらせられる」とAさんは苦笑いで話す。場所が持つ力を、身をもって実感している。
同じ空間に集まる、それぞれの「目標」
自習室KAKOIには、Aさんのような長期受験生だけが来ているわけではない。同じ後楽園駅前店を使う人たちの目標は、じつに様々だ。
28歳の会社員・Bさんは、1ヶ月後の資格試験合格を目標に通っている。「スマホがどうしても気になってしまう」という悩みを抱えていたBさんが、自習室という場所を選んだのも同じ理由だ。スマホを鞄に入れたまま席に向かうことで、気を散らす要因をそもそも遠ざける工夫をしている。
また、22歳の会社員・Cさんは職場近くの文京シビックセンター前店を利用し、毎日早朝と夜の時間帯に資格取得を目指して通い続けている。仕事をしながら勉強時間を確保するために、「職場からの近さ」を最優先条件にして店舗を選んだという。
立場も年齢も目標もバラバラな人たちが、同じ静寂のなかで各自の「今日やるべきこと」に向き合っている。その光景自体が、Aさんにとって毎日の小さな励みになっている。
「ゆくゆくは司法試験合格」——この夏も、積み上げ続ける
8月の酷暑は、受験生にとって試練の季節でもある。夏期講習に通う高校生たちが必死に問題を解くこの時期、Aさんも同じように汗をかきながら自習室への道を歩く。
法科大学院の受験は、試験当日に全力を出し切るための長い準備期間だ。模擬試験の結果に一喜一憂しながら、基本書を何度も読み返し、答案練習を繰り返す。終わりの見えない勉強を続けるには、「毎日自習室に来る」という習慣そのものが精神的な支柱になっている。
Aさんがいま意識しているのは、「結果を出すための場所を変えない」ことだ。自習室に来ること、席に座ること、テキストを開くこと。この3ステップを毎日繰り返すことが、やがて合格という結果につながると信じている。
まず法科大学院に受かること。それが目の前の目標です。その先に司法試験がある。遠いようで、毎日続けていれば必ずたどり着けると思っています。
25歳・無職・法科大学院受験生(Aさん)
同じように「家では集中できない」「勉強の場所を変えたい」と感じている人は少なくない。カフェでも図書館でもない、「勉強するためだけの空間」があることで、人は思っている以上に変わることができる。
Aさんの一日8時間は、今日もこの夏の自習室で静かに積み上げられている。

